地震保険制度見直し作業、急ピッチ

  東日本大震災では1兆2000億円を超える地震保険金が支払われ、官民でストックしてきた地震保険準備金が半減した。

 今後も巨大地震の発生が懸念される中、地震保険制度の強靭性向上が喫緊の課題とされ、2013年度の政府予算において、巨大地震が2回連続して発生しても耐え得るよう官民の保険責任額が改定された。

 また、損保料率機構が地震リスクの高まりなどを踏まえ、金融庁長官に地震保険の基準料率改定の届け出を行っており、来年7月に保険料が改定されることになる。

 “地震の世紀”に突入したといわれるわが国において、今後、首都直下地震や南海トラフを震源域とする東海・東南海・南海地震の3連動地震など巨大地震が発生した場合、現状の地震保険制度で耐え得るのかという課題が、東日本大震災を契機にあらためて浮き彫りとなった。
 昨年11月に発表された財務省の「地震保険制度に関するプロジェクトチーム(PT)」報告書では「地震保険制度については、地震国日本における安心の拠り所として、地震に際し迅速・確実に保険金が支払われることが重要であり、万一巨大地震が発生しても持続可能性が損なわれることのない強靭なものとして、制度に対する信頼性を確保しなければならない」とされている。

 同報告書の提言を踏まえ、現在、地震保険制度の見直しが進められている。

 

 地震保険の官民保険責任額は、関東大震災クラスの巨大地震が発生した場合でも保険金の支払いが滞らないよう総支払限度額を6兆2000億円とし、比較的規模の小さい地震(第1レイヤー)では民間が100%負担、規模の大きい地震(第2レイヤー)では官民が50%ずつ負担、巨大地震(第3レイヤー)では民間が一部負担して残りを国が負担するという3層構造で設定されている。これまでは、民間の準備金残高をベースに1地震当たりの民間責任額が設定されていた。
 今後、巨大地震が発生し、積み立てた民間の準備金が減少・枯渇した場合、政府は補正予算を組んで民間保険責任額を減額することになる。

 しかしながら、補正予算成立までの間に連続して巨大地震が発生した場合、民間は準備金の裏付けのない多額の保険金支払い義務を負うことになり、保険金支払いに支障が生じるとともに、民間が巨額債務を抱え連鎖的にわが国の金融マーケット全体に信用不安を与えかねないという懸念がある。


 そこで、13年度の政府予算において、官民保険責任額が改定され(13年5月17日改定)、1地震当たりの民間責任額を準備金水準より低く設定して保険金の支払い能力に余力(バッファー)を持たせることになった。

 この改定により、巨大地震が連続発生して補正予算による官民保険責任額の見直しが間に合わない場合でも、少なくとも2回目の地震までは準備金ベースでの対応が可能となった。

 仮に6.2兆円の保険金支払いがあった場合、民間責任額は2405億円となり、これを民間準備金残高4319億円(14年3月末見込み)から差し引くと、1914億円の準備金(バッファー)が残る。

 

 地震保険の料率に関しては損保料率機構が3月26日、地震保険基準料率の変更の届け出を金融庁に行った。これは準備金が減少したために料率を見直すということではなく、政府の地震調査研究推進本部が作成する「確率論的地震動予測地図」の更新によるもの。

 主として日本海溝周辺の震源モデルの変更など地震リスクの高まりが反映された形になっている。今回の料率改定は全国平均で15.5%の引き上げとなり、来年7月1日以降の

 始期契約分から適用されることになっている。主な都道府県の基本料率を見ると、鉄筋コンクリート造の耐火建築物などが属するイ構造の場合、東京都では保険金額1000円につき現行1.69円から2.02円と20%のアップ。

 一方、主に木造住宅などのロ構造の場合、3.13円から3.26円の4%アップとなっており、全国的に見てもロ構造で上昇率が低く抑えられている。

 これは、地盤の状態が考慮されたもので、マンションなどイ構造が多い低地は地震の揺れによる影響が従来よりも大きく評価された結果による。さらに、現行4区分の等地区分が3区分に集約される。これは、PT報告書の提言を踏まえ、等地間の料率格差の平準化を図ったものだ。
 また、建物の耐震化へのインセンティブ強化を図る観点から、割引制度も見直される。免震建築物と耐震等級3の建物では、割引率が現行30%から50%に、耐震等級2の建物では現行20%から30%に拡大される。これらの割引の適用が受けられる場合には、現行より保険料負担が軽減されるケースもある。
 今回の料率改定は、あくまでも日本海溝の震源モデルの見直しを反映したもので、南海トラフや相模トラフの震源モデルの見直しは反映されていない。

 今後、これらの地域における震源モデルの見直し内容によっては、さらに料率改定が行われる可能性も高い。
 PT報告書では、支払い保険金の格差縮小のための損害認定区分の細分化についても言及されており、細分化に当たっては、迅速性への悪影響や査定をめぐる苦情増加などへの懸念解消が前提とされている。

 首都直下地震などに際しても査定の迅速性を確保できるよう巨大地震を想定した新たな損害査定の手法について要検討とされており、現在、査定の迅速性確保のための方策について検討が進められている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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